1950年代に誕生した米国のアイウェアブランド「TART OPTICAL」。当時としては目新しかった樹脂製のアイウェアを中心に新鮮なデザインを発表し、ニューヨーカーのスタンダードとして不動の地位を築きました。特に『ARNEL(後のAR)』は、フォルム、サイズ、ボリュームのバランスが素晴らしく、「TART OPTICAL」の代表作としてジェームス・ディーンを初め多くの著名人の顔を飾りました。
70年代に入った頃、人員不足により「TART OPTICAL」は解散してしまいますが、近年、ジョニー・デップをはじめとするファッションに敏感な人々が『ARNEL』を愛用。世界的に再評価の波が広がり、ブランドの再興を望む声が高まりました。創業者の甥でタート社の生産管理を担当していたリチャード・タート氏は、創業者から受け継いだ大切な図面を基にブランド復活に尽力したのです。
ブランド名は創業者の名を冠し「JULIUS TART OPTICAL」に改め、ARNELも『AR』としました。現在、『AR』は欧米だけではなく、ワールドワイドにファンを獲得。今や世界的な定番品となったのです。
タート・オプティカル・エンタープライズ社の創立者であるジュリアス・タート氏。氏の残した膨大な資料を元に現代の優れた技術と実績のある素材を使用し、新たに生み出されたフレームが「JULIUS TART OPTICAL」です。
現在、アメリカでは眼鏡の生産背景がほとんど失われてしまいました。そのため、通常「JULIUS TART OPTICAL」は、世界でも有数の技術力を持った日本の工場で製造が行われており、高い完成度を誇っています。しかし、継続的に製造を行なえるよう、現代の技術が入っているため、品質と引き換えに無くしてしまったモノが存在するのです。それは、アメリカ製時代のモデルならではの微妙なズレや独特のディテールです。
そこで、当時の『ARNEL』が放っていた雰囲気を完全に再現するため、フォルムのつくり方を製法から突き詰めました。それが、2018年にリリースした限定モデル『AR LIMITED MODEL』です。
別注を企画した際に、偶然『Demi Amber』を復活させるというというタイミング、50年以上前の製作機械に奮闘する情熱ある職人との出会いが重った幸運。そういった経緯に加え、企画チームのアイデア、「JULIUS TART OPTICAL」が持つノウハウやカルチャー、そして日本の職人たちの情熱と技術が三位一体となって、今までにない最高の別注モデルが仕上ったのです。
当初、手間と時間がかかるため量産は難しいと考えていましたが、私たちが試行錯誤してようやくたどり着いた一本をこのまま途絶えさせてしまうのは惜しいという職人たちの声もあり、当社のエクスクルーシブとして不定期での販売が実現しました。
ミリ単位で調整が必要なパーツの削り出しも美しいフォルムもツヤも細かな工程を経てつくり出されます。その背景に欠かせないのは、鯖江の技術であることは言うまでもありません。
50年以上前の手動カッティングマシーンを用い、職人による数々の手作業による工程を経て完成したのが、インラインの『AR』よりもアメリカ製の時代に近い特別仕様のハンドメイドコレクションです。
フロントを通常ラインよりも0.5mmより薄い、当時と同様の5mmに設定。フロントカーブはアメリカ製と同様の0カーブにしています。(通常ラインは2カーブになっています)
また、フロントの傾斜角を一般的な10度から、こちらもアメリカ製と同じ8度に変更しました。仕上げの機械研磨を短くし、手磨きの時間を長くする事で特有のエッジの立った仕上がりを再現しています。(ヴィンテージフレームは再研磨されているため、全体的にエッジが無くなっています)
さらに、テンプルはカットしてから機械研磨を行なう事で、当時と同様に合口部分が丸みを帯びた形状になっています。
本家を追求してアメリカ製の空気感をまとった特別な一本です。
通常モデルは製造工程上、折り畳んだ時にテンプルがクロスしたようになってしまいますが、ハンドメイドラインは置いた時にも美しく見えるようにテンプルの重なりを調整しています。歴史的背景や製法だけでなく、掛け心地にもこだわっています。